Loading

Council for Sports Ecosystem Promorion

2024年09⽉25⽇記事 / コラム

第15回:米国での摘発事例

スポーツエコシステム推進協議会(C-SEP)が、アスリートとアスリートを取り巻く全てのステークホルダーに知ってほしい情報を発信していく本連載、15回目となる今回は、実際に米国で発生した、スポーツ賭博やスポーツベッティングにアスリート等が関与して処分を受けた事例を紹介します。


今年3月に大谷翔平選手の元通訳である水原一平氏が、カリフォルニア州の違法な胴元・マシュー・ボウヤー氏を通じてスポーツ賭博に手を染めていた事実が発覚したことは、読者の皆さんもよくご存知のことと思います。


水原氏は大谷選手の銀行口座から多額の資金を不正に送金したとして、銀行詐欺の疑いで訴追されました。


この連載の第2回目でも触れましたが、米国では、2018年にアメリカ連邦最高裁判所が「スポーツ賭博を禁止する法律は合衆国憲法に違反している」とする判決を下して以降、スポーツベッティングを合法化する州が増えてきています。


しかし、カリフォルニア州は、今もスポーツベッティングが合法化されていない12州のひとつですから、同州には合法的なスポーツベッティング業者というものが存在しません。カリフォルニア州で、同州内のベッティング業者を通じて賭けをしたら、100%違法です。


また、今年5月には、ロサンゼルス・エンゼルスに所属していたことがあるデビッド・フレッチャー選手が、マシュー・ボウヤー氏を通じスポーツ賭博を行っていた疑いがあるとして、MLBが調査を開始したと報じられました。


以上は違法なスポーツ賭博が問題となるケースですが、合法のスポーツベッティングであっても、スポーツ団体や選手、監督その他の関係者は、諸規則による制限を受ける場合があり、こうした規則に違反したことにより処分を受ける事例も発生しています。


今年6月、MLBは、サンディエゴ・パドレスのトゥクピタ・マルカーノ選手を永久追放処分としたほか、オークランド・アスレチックスのマイケル・ケリー選手、パドレス傘下のマイナーリーガーであるジェイ・グルーム選手、フィラデルフィア・フィリーズ傘下のマイナーリーガーであるホセ・ロドリゲス選手、アリゾナ・ダイヤモンドバックス傘下のマイナーリーガーであるアンドリュー・サールフランク選手の計4名に、1年間の出場停止処分を下しています。


永久追放処分と1年の出場停止処分とでは、処分の重さに大きく開きがあるように感じられますが、上記5名の処分を分けた要因は何だったのでしょうか。


メジャーリーグ規則(Measure League Rule 21)では、選手等が、自身が職務を行う義務(a duty to perform)を負う野球の試合に賭けた場合は永久追放、そうでない野球の試合に賭けた場合は1年間の出場停止というルールが明記されています。同じ野球の試合に対する賭けであっても、当該試合について、賭けを行った者が、自ら職務を行う義務を負っていたか否かによって、処分には大きな差が生じるのです1。MLBの声明によれば、上記5選手はいずれも、自身が出場する試合に賭けたことはありませんでした。しかし、マルカーノ選手が行った200件超のMLBの試合に対する賭けのうち、25件については、賭けの対象に、彼がMLBのパイレーツに所属していた期間中のパイレーツの試合が含まれていたとのことです。これに対し、残りの4選手については、自身のチームが関係する試合を対象とする賭けには関与していませんでした。


「自身が職務を行う義務を負う野球の試合に賭けた」といえるかどうかの判断基準について、Measure League Rule 21には詳細が記載されておらず、外縁は必ずしも明らかではありません。しかし、上記の事例を踏まえると、少なくとも、自身が出場するか否かを問わず、自らが40人ロースターに含まれている所属チーム(メジャー契約を締結しているチーム)の試合は、「自身が職務を行う義務を負う野球の試合」に該当すると考えて良いでしょう。


アスリート等が、違法なスポーツ賭博や規則で禁止されているスポーツベッティングに関与してしまうリスクは、決して机上のものではありません。MLBのコミッショナーであるロバート・マンフレッド氏は、上記声明の中で、「MLBはインテグリティ・モニタリング、教育プログラム及び啓発活動に重点を置いた投資を継続する」旨述べています。インテグリティを維持・強化していくためには、アスリート個人だけでなく、スポーツ団体や関係者を含めたスポーツ業界全体において、不断の努力が必要なのです。


1 なお、日本の場合、日本プロフェッショナル野球協約において、「所属球団が直接関与する試合」について賭けを行った場合には「永久失格処分」、「所属球団が直接関与しない試合、又は出場しない試合」(ここでいう「試合」とは、NPB の試合に限らず、アマチュアや高校野球も含めた野球の試合全般を指すようです。)について賭けを行った場合や、野球賭博常習者(ここにはいわゆる胴元も含まれるようです。)と交際したり、野球賭博常習者との間で利益の授受を行ったりした場合等には、「1 年以上5 年未満の期間の範囲内での期限を定めた失格処分、又は無期限の失格処分」とする旨が定められています。日米における規制内容やその背景事情を含む比較法的検討については、今後、コラム等で取り扱う予定です。